ローズガーデン 2024/10/18 Fri ローズガーデン 俺は風早公爵家の庭師であり、日々木々の剪定に花の手入れ等を生業として暮らしている。 ある日、苗ポットから花壇に植え替える作業をしていると後ろから 「精が出ますな」 との声が。振り返ると公爵家嫡男の風早巽様が、春の陽気に目を細め、俺の作業を興味深げに見つめているではないか。 「どうしたのですか、こんな所で」 などと俺が礼儀知らずにも尋ねれば、巽様は笑って 「すみません、貴方に少しお尋ねしたいことがありまして」 と屈みなさる。 「それはどういったご要件で」 しゃがんでいた俺は慌てて膝を折り、その場に正座の形を取った。 巽様は困ったように「まぁまぁ」と立ち上がるよう促して、自身も立ち上がる。 「この先にイングリッシュガーデンがあるでしょう?」 「はい」 「あれは俺が世話をしている庭で、たしか普段は立ち入りを控えるよう言われているそうですな」 「はい」 俺が相槌を返す度、彼の緊張は高まっていくような気がした。 少し言い淀んで、 「俺はこの頃、そのガーデンを王家主催の品評会に出そうと思っています」 真面目な顔に照れを滲ませながら瞳を真っ直ぐに 「それで、貴方に俺のガーデンを見て欲しいんです。」 俺の方は、何だそんなことかと腑抜けた笑みを零しそうになったが、思春期らしい澄んだ瞳を前に、ぐっと口元を引き締める。 巽様はそれほど話したこともない俺を相手に並ではない心持ちで真剣に教えを請うているのだ。 そうなると俺もそれに相応しい態度で応えなくてはいけない。 俺は一つ頷いて 「見ましょう」 と如何にも玄人らしい態度を取ってみせた。それは自分でも偉そうで可笑しかったが、当の巽様は愁眉を開き、胸いっぱいに空気を吸い込んで 「はい!」 と元気よく返事をした。 庭へ行くと見事な薔薇が所々に美しく咲き誇っていた。 入り口ではクィーンエリザベスの濃桃色が華々しく客人を迎い入れ、ファンタンラトゥールがお辞儀する。 ティーテーブルの傍らには優しい色合いのモダンシュラブとイングリッシュローズが幾重にも花弁を束ね、来客を包み込む。 そして、ふと下に視線を落とすと立派なレッドデビルが妖艶な影を潜め、こちらをじっと狙っていた。 俺は感嘆した。驚嘆して詠嘆した。 彼は恥ずかしそうにはにかみながら、それでもどこか誇らしげに自身のローズガーデンに向き合っていた。 それからしばらく。巽様は王家主催のローズガーデンの大会で最優秀賞を修めた。名前を呼ばれ表彰台に上がる。 民衆の前に立ち、綻ぶお顔は灼けたアシュラムのように輝いていた。 ローズガーデン編(終) 〈〈前の話 次の話〉〉 ページTOP
俺は風早公爵家の庭師であり、日々木々の剪定に花の手入れ等を生業として暮らしている。
ある日、苗ポットから花壇に植え替える作業をしていると後ろから
「精が出ますな」
との声が。振り返ると公爵家嫡男の風早巽様が、春の陽気に目を細め、俺の作業を興味深げに見つめているではないか。
「どうしたのですか、こんな所で」
などと俺が礼儀知らずにも尋ねれば、巽様は笑って
「すみません、貴方に少しお尋ねしたいことがありまして」
と屈みなさる。
「それはどういったご要件で」
しゃがんでいた俺は慌てて膝を折り、その場に正座の形を取った。
巽様は困ったように「まぁまぁ」と立ち上がるよう促して、自身も立ち上がる。
「この先にイングリッシュガーデンがあるでしょう?」
「はい」
「あれは俺が世話をしている庭で、たしか普段は立ち入りを控えるよう言われているそうですな」
「はい」
俺が相槌を返す度、彼の緊張は高まっていくような気がした。
少し言い淀んで、
「俺はこの頃、そのガーデンを王家主催の品評会に出そうと思っています」
真面目な顔に照れを滲ませながら瞳を真っ直ぐに
「それで、貴方に俺のガーデンを見て欲しいんです。」
俺の方は、何だそんなことかと腑抜けた笑みを零しそうになったが、思春期らしい澄んだ瞳を前に、ぐっと口元を引き締める。
巽様はそれほど話したこともない俺を相手に並ではない心持ちで真剣に教えを請うているのだ。
そうなると俺もそれに相応しい態度で応えなくてはいけない。
俺は一つ頷いて
「見ましょう」
と如何にも玄人らしい態度を取ってみせた。それは自分でも偉そうで可笑しかったが、当の巽様は愁眉を開き、胸いっぱいに空気を吸い込んで
「はい!」
と元気よく返事をした。
庭へ行くと見事な薔薇が所々に美しく咲き誇っていた。
入り口ではクィーンエリザベスの濃桃色が華々しく客人を迎い入れ、ファンタンラトゥールがお辞儀する。
ティーテーブルの傍らには優しい色合いのモダンシュラブとイングリッシュローズが幾重にも花弁を束ね、来客を包み込む。
そして、ふと下に視線を落とすと立派なレッドデビルが妖艶な影を潜め、こちらをじっと狙っていた。
俺は感嘆した。驚嘆して詠嘆した。
彼は恥ずかしそうにはにかみながら、それでもどこか誇らしげに自身のローズガーデンに向き合っていた。
それからしばらく。巽様は王家主催のローズガーデンの大会で最優秀賞を修めた。名前を呼ばれ表彰台に上がる。
民衆の前に立ち、綻ぶお顔は灼けたアシュラムのように輝いていた。
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