不思議生命体 2024/08/05 Mon 不思議生命体 ある晩のこと、公園にどでかい卵が現れた。それは一見よくある謎のオブジェに見えた。故に人々は誰もそれを気にすることなく、そのまま数日が経過した。しかし、その晩は違った。卵に近づく影があった。 「なんだこれ」 よれたTシャツに擦れたジーンズ。いかにも貧乏そうな、くたびれた若い男が躊躇なく卵に触れた。すると パカッ 卵の蓋が開き、中から裸の赤ん坊が。赤ん坊は急に視界が明るくなって驚いたのか、みるみるうちに顔を赤らませ、泣き声をあげようとした。男は慌てて赤ん坊を抱き上げる。そのとき背後で懐中電灯が無造作に辺りを照らすのを感じた。 ――お巡りだ。男は瞬時に判断し、胸で大人しくしている赤ん坊を取り敢えず家で保護することに決めた。 赤ん坊の世話を始めて約1ヶ月。あの貧弱だった乳児はこの短期間で立派な青年になった(177センチ)。おおよそこの世の生物とは思えない。 たまげる男に生命体は 「俺はドコドコから来た◯◯という生命体で、地球の方からは宇宙人と呼ばれる存在です」 と丁寧に自己紹介し始める。 「俺はここの調査をする職に就いていまして、そのためにまずは地球の習慣を学ぼうと、あの姿になっていたんです。騙すような真似をして申し訳ありません」 生命体の言うことはよく分からなかったが、よく分かった振りをして「そうかそうか」と頷いてみせると、生命体は安堵したようなホッとした表情になって 「あぁ、よかった。俺さんは良い人ですな。安心して頼み事ができます」 『頼み事?』俺の訝しげな態度をよそに生命体は続ける。 「俺と地球をまるっと一周、旅をしてくれませんか?やはり一人では心細くて、俺さんが居てくれたなら、なんと心強いことでしょう」 また訳の分からないことを言い出した。 「俺と?旅?」 「はい」 「いやいや、困るよ」 「おや、何か気になることでもありましたかな? 貴方には職も家族もないでしょうに」 「痛いところをつく」 「すみません、手段は選ばない性でして」 「ゆるふわの見た目のくせに…」 「このほうが何かと都合がいいので…♪」 俺は降参して、この不思議生命体――巽の調査に連れ添うことにした。 日本を始点として北は北極、南は南極。死の谷からジャングルの奥地まで。時には深海に潜ることもあった。俺達はピンチに陥るたび手を取り合って何とか諸々の研究課題をクリアしていった。 南アメリカ大陸、どこかのジャングルにて。巽は襲ってきたワニの大群を全て締め上げてしまってから、一匹の上顎にドカッと座り 「ふぅ、ここまで長い道のりでしたな」 誰に言うでもなくフッと零した。 「なに、その旅は終わったみたいな言い方」 男もそこらのワニを捕まえてドカッと座る。 「ふふ。そう、もう終わりなんですよ」 「どういうこと?」 「そのままの意味ですな。俺たちの調査はこれでお仕舞い。必要なデータが全て揃ったんです。俺さんのお陰ですよ」 「そんなこと一言も」 「言ってしまったら、悲しいムードになってしまうと思って。俺はそれを避けたかったんです。黙っていてすみませんでした」 俺は押し黙った。返す言葉が見つからなかった。 「俺さん…」 「っうぅ〜〜……いやだ、いやだっ…!!」 「そうですな、分かります。お別れというのは、いつ如何なる時でも辛いものです…」 「〜〜〜〜〜〜〜、!!」 悔しかった。どうしてコイツはこんなにも平然としていられるのか。どうして別れという言葉をいとも簡単に言えてしまうのか。 俺がこの旅で見出したもの、コイツは何も感じていなかったのか。 「あぁ、もうこんな早くから。…お迎えがきてしまったようです」 なんて空気の読めないお迎えだ。涙をダラダラ流したまま空を見上げる。そこには大きな円盤型のフィクションでよく見るUFOが浮かんでいた。呆気にとられて涙も止まる。 「俺さん。さあ、お別れをしましょう」 巽が俺と正面を向かい合わせ、両手を取る。 「ヒッ……ヒッ……」 巽は俺が泣き止むのを辛抱強く待ってくれた。 「っ…俺はぁ!お前と会えてぇ、本当に良かったと思ってるぅ!俺はぁ最初何っもなかったけどぉ、お前が来てくれてぇ強くなれたと思う!俺はぁ、お前のことがぁ!」 ここまで言って焦ったように巽が止めに入った。 「ちょっ、ちょっと待ってください。俺さん、俺さんは何とお別れしようとしているんですか?」 「はぁ?俺はお前と…」 「なるほど、これはすみません。俺の言葉が足りませんでしたな。」 「?」 「俺がお別れしようと言ったのは、俺に対してではなく、俺さんの故郷――地球に対してです」 「!?!」 度肝を抜かれた。コイツはナチュラルに俺をキャトろうとしていたのか!(正確には拐われる家畜に対して使う言葉) 「地球ぅーーー?!?!」 「はい、そうです」 「いやいやいや、おかしいよね?」 「はて?何がでしょう。貴方には職も家族もないはずですが」 「っ…!痛いところを」 「ふふ。そういうわけで、俺はお世話になった貴方に新しい居住地と仕事と、そして家族を与えたいと思ったんです」 「家族?」 「はい♪」 巽の両手が俺の手を包み込み、彼の胸元まで持っていく。 「俺と、一緒に来てくれますね?」 そんなに真っ直ぐ見つめられてしまっては…… 「はひ……」 こうして俺達は地球を後にし、巽の故郷――天王星へと帰っていった。 不思議生命体編(終) 〈〈前の話 次の話〉〉 ページTOP
ある晩のこと、公園にどでかい卵が現れた。それは一見よくある謎のオブジェに見えた。故に人々は誰もそれを気にすることなく、そのまま数日が経過した。しかし、その晩は違った。卵に近づく影があった。
「なんだこれ」
よれたTシャツに擦れたジーンズ。いかにも貧乏そうな、くたびれた若い男が躊躇なく卵に触れた。すると
パカッ
卵の蓋が開き、中から裸の赤ん坊が。赤ん坊は急に視界が明るくなって驚いたのか、みるみるうちに顔を赤らませ、泣き声をあげようとした。男は慌てて赤ん坊を抱き上げる。そのとき背後で懐中電灯が無造作に辺りを照らすのを感じた。
――お巡りだ。男は瞬時に判断し、胸で大人しくしている赤ん坊を取り敢えず家で保護することに決めた。
赤ん坊の世話を始めて約1ヶ月。あの貧弱だった乳児はこの短期間で立派な青年になった(177センチ)。おおよそこの世の生物とは思えない。
たまげる男に生命体は
「俺はドコドコから来た◯◯という生命体で、地球の方からは宇宙人と呼ばれる存在です」
と丁寧に自己紹介し始める。
「俺はここの調査をする職に就いていまして、そのためにまずは地球の習慣を学ぼうと、あの姿になっていたんです。騙すような真似をして申し訳ありません」
生命体の言うことはよく分からなかったが、よく分かった振りをして「そうかそうか」と頷いてみせると、生命体は安堵したようなホッとした表情になって
「あぁ、よかった。俺さんは良い人ですな。安心して頼み事ができます」
『頼み事?』俺の訝しげな態度をよそに生命体は続ける。
「俺と地球をまるっと一周、旅をしてくれませんか?やはり一人では心細くて、俺さんが居てくれたなら、なんと心強いことでしょう」
また訳の分からないことを言い出した。
「俺と?旅?」
「はい」
「いやいや、困るよ」
「おや、何か気になることでもありましたかな? 貴方には職も家族もないでしょうに」
「痛いところをつく」
「すみません、手段は選ばない性でして」
「ゆるふわの見た目のくせに…」
「このほうが何かと都合がいいので…♪」
俺は降参して、この不思議生命体――巽の調査に連れ添うことにした。
日本を始点として北は北極、南は南極。死の谷からジャングルの奥地まで。時には深海に潜ることもあった。俺達はピンチに陥るたび手を取り合って何とか諸々の研究課題をクリアしていった。
南アメリカ大陸、どこかのジャングルにて。巽は襲ってきたワニの大群を全て締め上げてしまってから、一匹の上顎にドカッと座り
「ふぅ、ここまで長い道のりでしたな」
誰に言うでもなくフッと零した。
「なに、その旅は終わったみたいな言い方」
男もそこらのワニを捕まえてドカッと座る。
「ふふ。そう、もう終わりなんですよ」
「どういうこと?」
「そのままの意味ですな。俺たちの調査はこれでお仕舞い。必要なデータが全て揃ったんです。俺さんのお陰ですよ」
「そんなこと一言も」
「言ってしまったら、悲しいムードになってしまうと思って。俺はそれを避けたかったんです。黙っていてすみませんでした」
俺は押し黙った。返す言葉が見つからなかった。
「俺さん…」
「っうぅ〜〜……いやだ、いやだっ…!!」
「そうですな、分かります。お別れというのは、いつ如何なる時でも辛いものです…」
「〜〜〜〜〜〜〜、!!」
悔しかった。どうしてコイツはこんなにも平然としていられるのか。どうして別れという言葉をいとも簡単に言えてしまうのか。
俺がこの旅で見出したもの、コイツは何も感じていなかったのか。
「あぁ、もうこんな早くから。…お迎えがきてしまったようです」
なんて空気の読めないお迎えだ。涙をダラダラ流したまま空を見上げる。そこには大きな円盤型のフィクションでよく見るUFOが浮かんでいた。呆気にとられて涙も止まる。
「俺さん。さあ、お別れをしましょう」
巽が俺と正面を向かい合わせ、両手を取る。
「ヒッ……ヒッ……」
巽は俺が泣き止むのを辛抱強く待ってくれた。
「っ…俺はぁ!お前と会えてぇ、本当に良かったと思ってるぅ!俺はぁ最初何っもなかったけどぉ、お前が来てくれてぇ強くなれたと思う!俺はぁ、お前のことがぁ!」
ここまで言って焦ったように巽が止めに入った。
「ちょっ、ちょっと待ってください。俺さん、俺さんは何とお別れしようとしているんですか?」
「はぁ?俺はお前と…」
「なるほど、これはすみません。俺の言葉が足りませんでしたな。」
「?」
「俺がお別れしようと言ったのは、俺に対してではなく、俺さんの故郷――地球に対してです」
「!?!」
度肝を抜かれた。コイツはナチュラルに俺をキャトろうとしていたのか!(正確には拐われる家畜に対して使う言葉)
「地球ぅーーー?!?!」
「はい、そうです」
「いやいやいや、おかしいよね?」
「はて?何がでしょう。貴方には職も家族もないはずですが」
「っ…!痛いところを」
「ふふ。そういうわけで、俺はお世話になった貴方に新しい居住地と仕事と、そして家族を与えたいと思ったんです」
「家族?」
「はい♪」
巽の両手が俺の手を包み込み、彼の胸元まで持っていく。
「俺と、一緒に来てくれますね?」
そんなに真っ直ぐ見つめられてしまっては……
「はひ……」
こうして俺達は地球を後にし、巽の故郷――天王星へと帰っていった。
不思議生命体編(終)
〈〈前の話 次の話〉〉
ページTOP