朝、散歩帰りのファミレスで 2024/03/14 Thu 朝、散歩帰りのファミレスで 朝の礼拝の後、俺は巽さんと散歩に出かけました。彼は当時から大人気アイドルであり、タレントであり、俳優でありましたから、俺にとってこのような機会を得られたのは約2週間ぶりのことでした。 俺達は1時間ほど歩きながら話しました。といっても、俺が一方的に喋っていただけのように記憶していますが――それはもう会えなかった分の時間を埋めるように。それでも彼は相槌を打ちながら笑顔で俺の手を引いてくれていたように思います。 その帰り道、ファミレスを見つけた彼は 「そういえば、喉が渇きましたな。あそこで少し休憩していきませんか?」 と提案しました。 俺はもちろん了承し2人で店に入りました。 早朝のファミレスは人影もまばらで、従業員も1、2人程度だったと思います。 店内は涼しくて薄暗く、辛うじて窓から差し込む朝日が窓辺から店の中央にあるドリンクバーをほんのり照らしていました。 俺達は窓際のソファーテーブルに腰掛け、メニューを開きました。 店内が薄暗いだけに日差しがより一層強く感じられ、ブラインドを降ろそうと、向こう側にある紐に視線をやりました。 しかし、光のコントラストを浴びる彼があまりにも美しくて…そんな気持ちもスッと消えていきました。 メニュに一通り目を通し、俺はプリンのパフェ、彼は紅茶を頼みました。俺達は食事が運ばれて来るまで会話の続きを楽しみました。 しばらくするとネコ型の配膳ロボットが軽快な音楽を奏でながら俺達のテーブルに向かってきました。 食事を受け取り、彼はロボットを返そうとタブレット操作をしますが、手こずっているようで、ロボットが 「冷めちゃうにゃー!」 と鳴きました。彼は 「はは、怒られてしまいました。いつまで経っても慣れないものですな」 と困ったように笑い、やっとのことでロボットは帰っていきました。 俺はそんな彼が愛おしくて、自分のプリンを取り皿に移し、彼に差し出しました。 最初は遠慮していた彼も俺があまりにもしつこく勧めるものですから、結局は折れて受け取ってくれました。 「美味しいです。ありがとうございます」 彼は一口食べてそう言いました。あんまり俺が見るもので食べにくそうでしたが、俺は彼の食べる姿を見るのが大好きでした。特に彼の一口が大きいところが好きで、その時もスプーンいっぱいのプリンを一気に口に放り込んでおり、すごく満たされた気分になりました。いっぱい食べてる訳ではないのですが、いっぱい食べる君が好きです。 俺達が会話に夢中になっていても時間は流れていきます。気づいたときには先程までパフェだったものがカラメルソース、苺ソース、バニラアイスの混濁した激甘な汁になっていました。幸い、ちまちまと消費していたホイップクリームは端のほうに残っていたものの、残念に思いつつ汁を啜っていると 「それだけでは味気ないでしょう。俺はもう十分いただいたので、あとは蒼さんが召し上がってください」 彼は先のプリンを差し出しました。 「えー! いいのー?」 遠慮のえの字もなく俺は、片手にスプーンを握ったまま若干掠め取るように受け取りました。しかし、プリンを目の前にして漸く気付きました。 それは一口しか手を付けられていなかったのです。 顔からボッと火が出た気がしました。自分が彼を、子どものままごとに付き合わせていたのだという事実が胸に落ちてきたのです。 さも彼に尽くせたかのような気になり優越に浸っていた時間を恥ずかしく思いました。 俺は気を紛らわすため残っていたホイップクリームを一気に口に放り込みました。もちろん綺麗に食べられるわけはなく、口の周りはもちろん鼻先までクリームまみれになりました。 彼はそんな俺を見てふふ。と笑い、紙ナプキンを手に取りこちらに身を乗り出しました。 「口の端についていますな。拭ってさしあげますから、顔をこちらにお寄せなさい」 相変わらず子ども扱いする様子の彼に理不尽にも少しヤキモキしました。机に手を置き立ち上がり、ぶっきらぼうに顔を突き出します。 そんな俺に気を遣ったのか、彼は緩んだ口元をきゅっと結びクリームを綺麗に取り去ってくれました。 「はい。もう動いて大丈夫ですよ……♪」 あれから十数年。今思うと巽さんは朝からプリンを食べるような気分ではなかったのだと思います。それでも幼子の気持ちを無下にしないために一口食べてくれたのでしょう。もしかすると、俺が後悔するのを見越して残してくれていたのかもしれません。 真相は分かりませんが、あの日の自分は彼の庇護下にある、まるで未熟な子どもでした。そんな自分が羨ましくもあり、彼の膝下を離れた今でも思い返す度に心がじんわり温まります。 〈〈前の話 次の話〉〉 ページTOP
朝の礼拝の後、俺は巽さんと散歩に出かけました。彼は当時から大人気アイドルであり、タレントであり、俳優でありましたから、俺にとってこのような機会を得られたのは約2週間ぶりのことでした。
俺達は1時間ほど歩きながら話しました。といっても、俺が一方的に喋っていただけのように記憶していますが――それはもう会えなかった分の時間を埋めるように。それでも彼は相槌を打ちながら笑顔で俺の手を引いてくれていたように思います。
その帰り道、ファミレスを見つけた彼は
「そういえば、喉が渇きましたな。あそこで少し休憩していきませんか?」
と提案しました。
俺はもちろん了承し2人で店に入りました。
早朝のファミレスは人影もまばらで、従業員も1、2人程度だったと思います。
店内は涼しくて薄暗く、辛うじて窓から差し込む朝日が窓辺から店の中央にあるドリンクバーをほんのり照らしていました。
俺達は窓際のソファーテーブルに腰掛け、メニューを開きました。
店内が薄暗いだけに日差しがより一層強く感じられ、ブラインドを降ろそうと、向こう側にある紐に視線をやりました。
しかし、光のコントラストを浴びる彼があまりにも美しくて…そんな気持ちもスッと消えていきました。
メニュに一通り目を通し、俺はプリンのパフェ、彼は紅茶を頼みました。俺達は食事が運ばれて来るまで会話の続きを楽しみました。
しばらくするとネコ型の配膳ロボットが軽快な音楽を奏でながら俺達のテーブルに向かってきました。
食事を受け取り、彼はロボットを返そうとタブレット操作をしますが、手こずっているようで、ロボットが
「冷めちゃうにゃー!」
と鳴きました。彼は
「はは、怒られてしまいました。いつまで経っても慣れないものですな」
と困ったように笑い、やっとのことでロボットは帰っていきました。
俺はそんな彼が愛おしくて、自分のプリンを取り皿に移し、彼に差し出しました。
最初は遠慮していた彼も俺があまりにもしつこく勧めるものですから、結局は折れて受け取ってくれました。
「美味しいです。ありがとうございます」
彼は一口食べてそう言いました。あんまり俺が見るもので食べにくそうでしたが、俺は彼の食べる姿を見るのが大好きでした。特に彼の一口が大きいところが好きで、その時もスプーンいっぱいのプリンを一気に口に放り込んでおり、すごく満たされた気分になりました。いっぱい食べてる訳ではないのですが、いっぱい食べる君が好きです。
俺達が会話に夢中になっていても時間は流れていきます。気づいたときには先程までパフェだったものがカラメルソース、苺ソース、バニラアイスの混濁した激甘な汁になっていました。幸い、ちまちまと消費していたホイップクリームは端のほうに残っていたものの、残念に思いつつ汁を啜っていると
「それだけでは味気ないでしょう。俺はもう十分いただいたので、あとは蒼さんが召し上がってください」
彼は先のプリンを差し出しました。
「えー! いいのー?」
遠慮のえの字もなく俺は、片手にスプーンを握ったまま若干掠め取るように受け取りました。しかし、プリンを目の前にして漸く気付きました。
それは一口しか手を付けられていなかったのです。
顔からボッと火が出た気がしました。自分が彼を、子どものままごとに付き合わせていたのだという事実が胸に落ちてきたのです。
さも彼に尽くせたかのような気になり優越に浸っていた時間を恥ずかしく思いました。
俺は気を紛らわすため残っていたホイップクリームを一気に口に放り込みました。もちろん綺麗に食べられるわけはなく、口の周りはもちろん鼻先までクリームまみれになりました。
彼はそんな俺を見てふふ。と笑い、紙ナプキンを手に取りこちらに身を乗り出しました。
「口の端についていますな。拭ってさしあげますから、顔をこちらにお寄せなさい」
相変わらず子ども扱いする様子の彼に理不尽にも少しヤキモキしました。机に手を置き立ち上がり、ぶっきらぼうに顔を突き出します。
そんな俺に気を遣ったのか、彼は緩んだ口元をきゅっと結びクリームを綺麗に取り去ってくれました。
「はい。もう動いて大丈夫ですよ……♪」
あれから十数年。今思うと巽さんは朝からプリンを食べるような気分ではなかったのだと思います。それでも幼子の気持ちを無下にしないために一口食べてくれたのでしょう。もしかすると、俺が後悔するのを見越して残してくれていたのかもしれません。
真相は分かりませんが、あの日の自分は彼の庇護下にある、まるで未熟な子どもでした。そんな自分が羨ましくもあり、彼の膝下を離れた今でも思い返す度に心がじんわり温まります。
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