隣の席の優等生 2024/07/05 Fri 隣の席の優等生 隣の席。 中学校生活において隣の席がどんなやつか、というのはとても重要である。 いい奴であれば宿題を写させてもらえたり、忘れ物をすれば一緒に見せてもらえるよう頼みやすくなる。反対に、わるい奴――異常に無愛想だったりヤンキーだったりすれば、ペア活動なんてのは終わったも同然だろう。 俺の隣はというと、風早巽。他に類を見ないほどの優等生である。 『やりぃ!』俺はこれが確定した時、あまりの嬉しさに膝を打った。風早巽は学力においても人格においても完璧な超・優等生だったからだ。 テストは毎回上位常連。一年の頃から生徒会に属していて、困った者には必ず手を差し伸べる。なんでも実家が教会なんだそうだ。納得。そして何より女みたいに顔がいい。ここ男子校において、それは何よりも重要なことだ。 「これからどうぞよろしくお願いしますな俺さん。お隣同士支え合っていきましょう♪」 なんて善良そうなやつなんだ。支え合うなんてたまったもんじゃないが、思う存分利用させてもらうぜ。 それから俺は、事ある度に隣の席の風早巽を頼った。授業の予習、宿題の写し、教科書を借りたり、掃除当番まで。どんなことでも頼めばこの優等生は断らなかった。 なんて楽ちんなんだ! 風早巽サイコー!! ある日の夕方、俺は家のお使いでスーパーに行く際、優等生の家の前を通ることになった。 俺は優等生の部屋がどこにあるのか気になって、ゆっくり通りを歩いた。しかし、殆どの部屋にカーテンがかかっていて中が見えない。なんだが不気味な家だ。そう思いながら目を凝らしていると、一階の一室にカーテンの隙間(あき)があることに気がついた。 俺は中に人がいるかもしれないと思い、見つからないよう慎重にその一室を覗き込んだ。が、次の瞬間目を疑った。例の優等生『風早巽』がおじさんのデカちんこを咥えているではないか。俺は驚いてその場に腰を抜かした。そして、無理やり足をばたつかせその場を逃げ出した。 ――アイツと一瞬目が合った気がする。 翌日、いくら待ってもアイツが俺に釘を刺してくることはなかった。それどころか何もなかったようにいつも通りだ。『気づかれていない?』そう思うと逆にこっちから相手を強請ってみたくなるものだ。 帰りのホームルームのあと、俺は隣で帰り支度を済ますアイツの耳元にそっと、こう囁いた。 「昨日のことだけど」 すると例の如く、優等生はにっこり微笑んで 「場所を変えましょうか」 待っていたみたいに。 放課後の空き教室 「やはり、昨日窓越しに目があったのは俺さんだったんですね」 「やはりって。気づいてたんじゃん」 「ふふ」 「なんで何も言ってこなかったんだよ」 「俺から言及するほどのことでもありませんから」 「俺が周りに言うかもしれなかったろ!」 「言わなかったでしょう」 「それは…っ!」 俺は悔しかった。コイツの甘さが、俺みたいな奴を信じる愚かさが。 「ふふ、呼び出したからには俺に何か望むものがあるのでしょうな。言わないと約束してくださるなら、なんでも差し出してみせますよ」 「……なんでも?」 しかし、それを聞いた瞬間。俺のささやかな善性は見事に打ち砕かれた。 「それじゃあ……」 ――事後 微かな煙の匂い。鼻をピクつかせ、目を閉じたまま、俺は煙の出どころを掴もうと首を反対側に動かした。薄ら目を開ける。 するとそこには上裸の――俺と先程まで交わっていた――例の優等生が心ここにあらずといった表情で物憂げに煙草を咥えていた。 優等生は俺の視線に気づいたのか、スッと笑顔を作ると、煙草を口から離し、代わりに人差し指を唇に当ててから しーっ… と…小さくジェスチャーしてみせた。 隣の席の優等生編(終) 〈〈前の話 次の話〉〉 ページTOP
隣の席。
中学校生活において隣の席がどんなやつか、というのはとても重要である。
いい奴であれば宿題を写させてもらえたり、忘れ物をすれば一緒に見せてもらえるよう頼みやすくなる。反対に、わるい奴――異常に無愛想だったりヤンキーだったりすれば、ペア活動なんてのは終わったも同然だろう。
俺の隣はというと、風早巽。他に類を見ないほどの優等生である。
『やりぃ!』俺はこれが確定した時、あまりの嬉しさに膝を打った。風早巽は学力においても人格においても完璧な超・優等生だったからだ。
テストは毎回上位常連。一年の頃から生徒会に属していて、困った者には必ず手を差し伸べる。なんでも実家が教会なんだそうだ。納得。そして何より女みたいに顔がいい。ここ男子校において、それは何よりも重要なことだ。
「これからどうぞよろしくお願いしますな俺さん。お隣同士支え合っていきましょう♪」
なんて善良そうなやつなんだ。支え合うなんてたまったもんじゃないが、思う存分利用させてもらうぜ。
それから俺は、事ある度に隣の席の風早巽を頼った。授業の予習、宿題の写し、教科書を借りたり、掃除当番まで。どんなことでも頼めばこの優等生は断らなかった。
なんて楽ちんなんだ! 風早巽サイコー!!
ある日の夕方、俺は家のお使いでスーパーに行く際、優等生の家の前を通ることになった。
俺は優等生の部屋がどこにあるのか気になって、ゆっくり通りを歩いた。しかし、殆どの部屋にカーテンがかかっていて中が見えない。なんだが不気味な家だ。そう思いながら目を凝らしていると、一階の一室にカーテンの隙間があることに気がついた。
俺は中に人がいるかもしれないと思い、見つからないよう慎重にその一室を覗き込んだ。が、次の瞬間目を疑った。例の優等生『風早巽』がおじさんのデカちんこを咥えているではないか。俺は驚いてその場に腰を抜かした。そして、無理やり足をばたつかせその場を逃げ出した。
――アイツと一瞬目が合った気がする。
翌日、いくら待ってもアイツが俺に釘を刺してくることはなかった。それどころか何もなかったようにいつも通りだ。『気づかれていない?』そう思うと逆にこっちから相手を強請ってみたくなるものだ。
帰りのホームルームのあと、俺は隣で帰り支度を済ますアイツの耳元にそっと、こう囁いた。
「昨日のことだけど」
すると例の如く、優等生はにっこり微笑んで
「場所を変えましょうか」
待っていたみたいに。
放課後の空き教室
「やはり、昨日窓越しに目があったのは俺さんだったんですね」
「やはりって。気づいてたんじゃん」
「ふふ」
「なんで何も言ってこなかったんだよ」
「俺から言及するほどのことでもありませんから」
「俺が周りに言うかもしれなかったろ!」
「言わなかったでしょう」
「それは…っ!」
俺は悔しかった。コイツの甘さが、俺みたいな奴を信じる愚かさが。
「ふふ、呼び出したからには俺に何か望むものがあるのでしょうな。言わないと約束してくださるなら、なんでも差し出してみせますよ」
「……なんでも?」
しかし、それを聞いた瞬間。俺のささやかな善性は見事に打ち砕かれた。
「それじゃあ……」
――事後
微かな煙の匂い。鼻をピクつかせ、目を閉じたまま、俺は煙の出どころを掴もうと首を反対側に動かした。薄ら目を開ける。
するとそこには上裸の――俺と先程まで交わっていた――例の優等生が心ここにあらずといった表情で物憂げに煙草を咥えていた。
優等生は俺の視線に気づいたのか、スッと笑顔を作ると、煙草を口から離し、代わりに人差し指を唇に当ててから
しーっ…
と…小さくジェスチャーしてみせた。
隣の席の優等生編(終)
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